純金箔
自分の釣りがミノーイング一辺倒になった頃、すでにタバコの銀紙では満足できなくなり、毎日のように素材探しに没頭していた。そんなある日、チャンスは思いかけずに巡ってきた。友人の1人に呉服屋がいて、着物の帯の材料に使う金箔があるという。
だが、それからが戦いの始まりだった。冬場の静電気、夏場の湿気と作業に邪魔になるものはいくらでもあった。細心の注意を払っていても失敗することは珍しくなく、失敗談は書き切れないくらいある。 そして、やっと完成した金箔ルアーを持って友人と芦ノ湖へ向かった。
ラインの先端には金箔ルアーが結ばれた。第一投・・・ミノーがヒラを打つ度にいままで見たこともない光りの環がミノーを包んだ。そしてトラウトのバイトも以前とは比べものにならないくらい増えた。
金は赤に近い色合いから薄明かりでもよく光り、朝マズメ、夕マズメの釣りには格好の素材であった。この時間帯は大物を中心に魚の活性が最も上がるときである。
その日を境に芦ノ湖では大物キラーとして金箔ミノーが有名な存在となった。 現在ではキクチミノー = 金箔というイメージで語られるほどで、金箔はキクチミノーの代名詞となった。
私が金箔に注目したのは偶然ではない。しかし、金と私たち人間との営みの歴史の中にはそれを語る膨大な事実が織り込まれている。
奈良の大仏で有名な東大寺の本堂は、陽の光りが射し込むと黄金の仏像やお堂の中が眩いばかりの金色に包み込まれ、信仰のない人にも仏の存在を信じさせるという。東大寺の例にもれず、電気やレーザー光線のない時代には、多くのお寺で自然現象を巧みに利用していたと考えられる。
金がその筆頭にあったことは、私と太古の意志とにちょっとした共通点を見い出したようで感慨深い。
魚だけでなく、人間にまで幻想を見せてしまうとは・・・。
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